<所感>
サイエンス系ノンフィクションではサイモン・シンの「暗号解読」「フェルマーの定理」「宇宙創成」に並ぶ読むべき本。
ただしアルツハイマーが題材ゆえに悲しくも人間味が満載である。内容は本当に現在進行形の話。
本書は非常に章が多い。そのためテンポよく複数の物語が進み、読み手を飽きさせない。著者のジャーナリスト能力は言うに及ばず、純粋に筆力が素晴らしい。
印象的なエピソードは2つ。
①エーザイが米国の製薬会社スクイプに販売権の渡す交渉の際に、先方に選択権がある状況を回避するために生理前のデータを提出した話。これはエーザイの担当者もさることながら、選択権がありつつも判断のためのリテラシーは重要であることを教えてくれる。
②優秀であり遺伝子工学の最前線にいたアルツハイマーの研究者ラエ・リン。しかし彼女自身がアルツハイマーを発症し、研究の舞台から去る話。現在の彼女は一人の認知症患者。
新薬を生み出すには能力とそして多くの運が必要である。どれだけ優秀でも何もできず敗れ去る人が大半(そんな人も本書ではちゃんと書かれている)
自分が研究した病気が退場の引き金を引く。あまりに非情だが、そんな現実もしっかりと書かれている。
<目次>
プロローグ まきがくる
第1章 二人のパイオニア
第2章 セレンディピティー
第3章 アルツハイマー病遺伝子を探せ
第4章 捏造の科学者
第5章 アルツハイマー病遺伝子の発見
第6章 有意差を得ず
第7章 ハツカネズミはアルツハイマー病の夢を見るか?
第8章 アリセプト誕生
第9章 ワクチン療法の発見
第10章 AN1792
第11章 ラエ・リン・バークの発症
第12章 特許の崖
第13章 不思議な副作用
第14章 バピネツマブ崩れ
第15章 アミロイド・カスケード・セオリーへの疑問
第16章 老人斑ができないアルツハイマー病
第17章 発症の前を探る
第18章 アデュカヌマブの発見
第19章 崖を落ちる
第20章 さらばデール・シェンク
第21章 遺伝性アルツハイマー病の治験
第22章 私にお手伝いできることはありませんか
第23章 中間解析
第24章 勇気あるスピーチ
エピローグ 今は希望がある