「これはただの夏」燃え殻
<所感>
テレビ制作会社勤務の40代半ばの独身男性のある夏から秋の物語。
ちょっと風が吹いて落ち葉が舞う。そのくらいに虚無感があり、何より切ない。
夏の小説=青春といった10代や20代にありがちなキラキラ感はない。
40代とはそんな時期なのか。
何かが起こりそう、でもただの夏。本当にただの夏の出来事。
少しの間は思い出に残るだろうが、明日からまた始まる日々の日常に忙殺され忘れてしまうくらいの夏の出来事。
ときめきもワクワクもない。しかしなぜかそんな夏を体験したくなる。そんな小説。
印象的な個所をいくつか。
…四〇代半ばのいま、体はガタつき、感情のアップダウンは鈍麻し、ご臨終を迎えた心電図みたいに波打たなくなっていた。
…ここではない何処かへ。そんな夢を見られる年齢ではないことは、よくわかっている。ただ、…ここではない何処かへの逃避を夢見てしまう。年相応に考え方や身の振り方を変えていける人が信じられない。そういう人は羨ましいが、そういう人になりたくはない。
人々が楽しんでいる最中に「この祭りはもうすぐ終わってしまう。だって、こんなに楽しいんだから」と思ってしまう癖がある。淋しさの前借り、いや先取りをしてしまうのだ。