「ドストエフスキー 黒い言葉」亀山 郁夫
<所感>
ドストエフスキーが読みたくなる。そんな本。
もう20年ほど前、ドストエフスキーの「カラーマゾフの兄弟」や「賭博者」にチャンレジをした。
当時は工藤精一郎訳の新潮文庫。
しかし見事に途中で断念。
ロシア人の名前がそもそも覚えにくい。また覚えたとしても、その名前の呼び名(愛称)が変わりまくるということが理由のひとつ。
例えば「ウラジーミル」の愛称は「ヴォロージャ」とか「ヴォーヴァ」になる。原形がないやん。。
他の理由は、単純に読解力不足のためだろうが、ストーリーが入ってこなかったこと。
ということでそれ以来ドストエフスキーには手を付けなかった。
その後、亀山郁夫訳の光文社古典新訳文庫のドストエフスキーがとても読みやすい!と読書界隈では話題になった(はず)。
しかし手を付けなかった。
そして、今回、その亀山先生のドストエフスキー作品の解説書と言える本が出版されて読んでみた。
これは、ドストエフスキーを読みたくなる。一言でいえばそんな本。
ドストエフスキーの各作品の言葉を引用し、ドストエフスキー本人とその時代のへの思いが伝わってくる。
ロシア人の呼び名がころころ変わる問題は仕方ない。
でも亀山先生の訳ならば(いまさらだが)新しいドストエフスキーに出会えそうだ。
さすがに、ロシア語を原文で読むのは不可能だし。
ドストエフスキー作品からの印象的な一文。
「金とはいわば鋳造された自由である」(死の家の記録)
「金がなによりも醜悪で憎たらしいのは、人間に才能までも与えてしまうからだ」(白痴)
「ぼくはペテン師ではあっても、社会主義者じゃないんです」(悪霊)
「疫病はアジアの奥地から、ヨーロッパへ広がっていった。ごく少数の選ばれた人々をのぞいて、だれもが死ななければならなかった。…この疫病にかかった人々は、たちまち悪魔に憑かれたように気を狂わせていった」(罪と罰)
最後の罪と罰の文は、主人公のラスコーリニコフが見た悪夢の語りだし。
様々な情報が錯綜するコロナ禍の現状を見越したかのようだ。
<目次>
序 豊饒の「黒」
第一章 金、または鋳造された自由
第二章 サディズム、または支配の欲求
第三章 苦痛を愛する、または「二二が四は死のはじまり」
第四章 他者の死を願望する
第五章 疚しさ
第六章 美が世界を救う
intermission 「神がなければ、すべては許される」
第七章 「全世界が疫病の生贄となる運命にあった」
第八章 夢想家、または「永遠のコキュ」
第九章 不吉な道化たち
第十章 神がかりと分身
第十一章 破壊者たち
第十二章 父殺し、または「平安だけがあらゆる偉大な力の……」
あとがき