「教育格差の診断書―データからわかる実態と処方箋」川口俊明 編
<所感>
日本の省庁で最も不要なところは文部科学省だと考えているが、この本のようにデータを踏まえた教育格力の是正を講じることができるとその存在意義があると言えるかもしれない。そんなことを感じる本。
とても良書。
教育格差の問題が話題となる昨今だがその実態究明はとても表面的。
理由は主に①~④でありこれらが絡みあっている。
①個人保護やプライバシーの観点で子どもの社会属性の収集が難しい。
②学校では平等思考が強く、差がある可能性がある行動を避けたがる
③調査するに統計的分析に値する内容や継続的なデータが少ない
④そもそもこの手の問題に関して統計的アプローチができる研究者が少ない
しかしこの根本は日本の教育をどうしたいかというグランドデザインがないことだろう。
ゆえに欧米と比べて学力調査の質がとても低い(単に、何かのテストの点数を比較するだけ)
また、④はとても問題だ。
「朝食を食べる子どもの方が、算数のテストの点が高い」という調査結果を耳にする。
これは相関関係を明示しているだけで、因果関係とは無関係であるはずだが、短絡的に朝食を食べれば算数の成績があがると解釈してしまうことが多い(特に評論家)
朝食が算数の点数に関係するかは、朝食を食べている子どもたちの中で差はあるのか、朝食を食べなくなると点はどうなるのか、その逆はどうか。複数の検証が必要なはずだ。
そしてそもそも「どんな目的でそのデータを取得したのか、その分析はどのように統計処理されているのか」。
データが全てではないが、データも踏まえて論じないと教育格差は解消できないだろう。
このかじ取りを文部科学省に期待したいが、、果たして。
<目次>
第1章 日本の教育行政が実施する学力調査の問題点
第2章 学力調査を分析するための基礎知識―朝ご飯は学力に繋がるか?
第3章 進級しても変わらない格差―児童間・学校間における格差の平行推移
第4章 学習時間格差を是正するには―子どもの環境差に応じた働きかけ
第5章 小学生のグリット(やり抜く力)格差の推移
第6章 学校文化と教育格差―日本社会に文化資本概念をどう適用するか
第7章 アンケート調査の落とし穴―客観的な数値データは正しいか
終章 「教育改革やりっ放し」のループを抜け出すために