「沙林―偽りの王国」帚木 蓬生
<所感>
沙林=台湾語でサリン。1994年の松本サリン事件からもう30年近くが経つ。
フィクションの体裁と言いつつ、本書は神経内科医の目線でそんなオウム真理教による凶悪犯罪を振り返っている。
また筆者が医師ということもあり、とにかく毒ガスに関する言及が細かい。
詳細に言及しすぎな感もあるが、実事件だからこそしっかりと記録に残しておくという意味では価値があるだろう。
教祖の死刑が執行された今、オウム真理教の凶暴性や異常性はこれ以上解明できないことが多いかもしれない。
一方で、一連のオウム事件でこれからも腑に落ちないのは以下の点だと感じ、この議論は風化させてはいけないと痛感する。
①宗教法人への不可侵信仰という特権:オウムの暴走は宗教法人を取得後に加速した。しかし憲法14条の宗教の自由により、教団の体制に疑義があっても下手に介入できない。
しかし、この結果どれだけの人が命を落とし犠牲になったことか。
②警察の初期対応の不備:松本サリン事件では長野県警の初動不備が痛手だった。不備が各都道府県まかせでは対応できないことがある。内務省をつくって全国的な対応ができるような体制が必要だろう。
③破壊活動防止法(破防法)という幻:あれほどの事件やとテロを起こしたオウム真理教だが破防法の適用は見送られた。
しかも1995年に坂本護士事件で遺体が発見されてあとの1996年に日弁連はオウムへの破防法適用を反対しその声明文は未だにHPに掲載されている。
(https://www.nichibenren.or.jp/document/assembly_resolution/year/1996/1996_1.html)
<目次>
松本・一九九四年六月二十七日
目黒公証役場
警視庁多摩総合庁舎敷地
地下鉄日比谷線と千代田線の被害届
犠牲者とサリン遺留品
サリン防止法
VXによる犠牲者と被害者
滝本太郎弁護士殺人未遂事件
イペリットによる信者被害疑い
温熱修行の犠牲者
蓮華座修行による死者
ホスゲン攻撃
教祖出廷
逃げる教祖
教祖の病理
証人召喚
死刑執行