「エジプトの空の下 - 私が見たふたつの革命」飯山陽
<所感>
イスラム研究者の著者が「アラブの春」にあった2011-2015年のエジプト生活にもとづくエッセイ。
しかし、たんなるエッセイではなくイスラム研究に対するエスノグラフィーの要素も満載。
特にイスラム教に対する論考は他のイスラム研究者とは確実に一線を画す視点であり、とても現実的。
宗教論は思想信条の自由と言う絶対的な御旗の元で論じられなくはいけない。
決してどちらかを否定するものではなく、異教徒の関わりで重要なことは互いへの信頼と敬意という。
(もちろん、いくら思想の自由があるとはいえ、犯罪行為はNG)
そして女性である著者はエジプト生活経験やコーランの規定から、イスラム教の女性に対する見解を述べる。
経典は不変であり絶対。これが宗教である。
そのロジックを例えば日本に持ち込むとどうなるか?そのロジックを受け入れることをが多様性の尊重なのか?
この問いかけはとても重要。
多様性至上主義に立脚するとなんでも受け入れろ、の立場になるのだろうが、そこに信頼と敬意があるのだろうか。
そして逆の立場になれば相手はこちらのロジックを受け入れるのだろうか。
さらにいうと他文化交流や外交においては相互主義が原則であるが、それはあくまでも十分条件であるはず。
そんなことを考えさせられる良書。
<目次>
1 娘と親友とサラフィー運転手
2 ピラミッドを破壊せよ
3 頭上注意
4 バット餅
5 出エジプト
6 髪を隠す人、顔を隠す人
7 ファラオの呪い
8 エジプトのアルカイダ
9 牛の腹
10 ふたつの革命