「人体大全―なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか」 ブライソン・ビル
<所感>
宇宙と海は冒険の行き先としてラストフロンティアと呼ばれるが、一番身近で永遠の謎は自分の体、人体にある。
人体という究極のシステムを多角的にそして歴史的に切り込んでいる。
約500ページのボリューム満点の本書だが、とにかく面白く、筆力によりぐいぐい引き込まれる。
筆力を要素分解すると特徴な3点がある。
1)ウイットに富んだ具体的な比喩
呼吸するたびに吐き出す酸素分子は2.5 x 10^22個(250垓個)。一日呼吸をすればこれまでに存在したあらゆる人が吐き出した分子の少なくとも1個を吸い込んでいる可能性が高い(第13章)
2)センスのいいフレーズ
(禿について)この現象を前向きにとらえる方法は、中年になったら体のどこかをあきらめなければならないとすれば毛包がいけにえの第一候補でもしかたないと自分に言い聞かせることだ。。結局のところ、禿げで死んだ人はいないのだから(第2章より)
がんとは結局、自分の体が全力で自分を殺そうとすることなのだ。許可のない自殺。(第22章より)
3)トリビア満載
“bladder(膀胱)”は体に関する言葉の中で最も古いものの一つ。
古英語では中間に”d”音がある単語のほとんどは、柔らかい”th”に変化したので”fader”は”father(父)”になったが、bladderは…千年以上にわたって元の発音に忠実であり続けている。(第8章より)
どの章から読んでも、ぱらぱらとつまみ食い読みをしても楽しめる。そんな本。
最後に気になる点を2つ。
・22章「命が終わるとはどういうことか」では寿命について述べられているが、日本への言及が非常に少ない。英語の参考文献が少ないせいだろか?
・11章「ヒトが生存可能な環境とは」では人体実験の例として七三一部隊が列挙されている。この主張は森村誠一の著作を起源とするもので、断定的に列挙するのはどうかと。
<目次>
1ベネディクト・カンバーバッチのつくりかた
2わたしたちは毎日皮膚を脱ぎ捨てている
3微生物との「甘い生活」
4脳はあなたそのものである
5頭のなかの不思議な世界
6あなたの「入り口」は大忙し
7ひたむきで慎み深い心臓
8有能な「メッセンジャー」ホルモン
9解剖室で骨と向き合う
10二足歩行と運動
11ヒトが生存可能な環境とは
12危険な「守護神」免疫系
13深く息を吸って
14食事と栄養の進化論
15全長九メートルの管で起こっていること
16人生の三分の一を占める睡眠のこと
17わたしたちの下半身で何が起こっているのか
18命の始まり
19みんな大嫌いだけど不可欠な「痛み」
20まずい事態になったとき
21もっとまずい事態(つまり、がん)になったとき
22よい薬と悪い薬
23命が終わるとはどういうことか