<所感>
「努力と才能で、人は誰でも成功できる」という能力主義(メリトクラシー)。
一見その通りと思えるが、これは新しい階級制度となりうる。また能力主義の根底には「経済価値(稼ぎ)=その仕事の倫理価値」という認識が広まっているのが問題、と筆者は説く。
この本は答えのない問題を議論する哲学本。
答えが無いゆえに様々な視点でとにかく対象となる事象に切り込む。
切り込み方は細分化され、「~主義」「~思想」などの名称がつけられる。
とにかく答えはなんだ!と考えてしまうとこの手の本は読めない。
哲学の意義がそうであるように、どれだけ考えに考え抜くのか。
それを味合うことが本書の読み方と思う。
特に「学歴偏重主義は容認されている最後の偏見」という視点は面白い。
さて、能力主義の残酷な現実。それは一見平等に見えつつ経済格差が隠れていること。
例えばハーバード大学の学生の3分の2は所得規模が上位5分の1の仮定の出身だ。
しかし自分の努力のおかげでエリートの立場となった人は傲慢になる。
これは本当に平等な世界なのか?と筆者は語る。
著者はまず「能力主義によりエリートとなることができる今の環境に感謝を」という。
今現在の能力主義はあくまでも過去の人々が勝ち取ったもの。
これは言い方を変えると「謙虚になりましょう」と言えるのかもしれない。
しかし本書では「謙虚」という言葉は出てこなかった(少なくとも一読した限りでは)
どうしてだろう?この点が本書最大の疑問点。
<目次>
序論―入学すること
第1章 勝者と敗者
第2章 「偉大なのは善良だから」―能力の道徳の簡単な歴史
第3章 出世のレトリック
第4章 学歴偏重主義―何より受け入れがたい偏見
第5章 成功の倫理学
第6章 選別装置
第7章 労働を承認する
結論―能力と共通善