「暗殺国家ロシア―消されたジャーナリストを追う」福田ますみ
<所感>
日本では安倍政権をマスコミ(マスゴミ)やいわゆるリベラルの言論人が「アベ独裁」と評していた。
しかし、その台詞が言えることこそが言論の自由が保たれている一番の証である。
ロシアではそんなことは許されない。文字通り抹消される。
共産主義国家のソ連は崩壊し、後継はロシア連邦共和国となった。一見、民主主義のロシアであるが実態は独裁主義である。
独裁主義は情報を統制する。ロシア国民が情報を得る手段は圧倒的にテレビ。
よってテレビの主要キー局が政権の管理下に置かれている現状では、プロパガンダはお手の物である。
そんな言論弾圧に立ち向かうメディアが、新聞社の「ノーバヤガゼータ」。ただしその代償は大きく、創刊17年で記者、契約記者そして顧問弁護士の合計6名が殺害されている(死亡者には不審死も含まれる)。
これこそが独裁下における言論弾圧である。
そもそも独裁国家に生まれていない時点で、我々は国ガチャ当たりであり、政権批判ができることに感謝するべきだろう。
本書の終盤には2004年のベスラン学校占拠事件における官製報道の実態に迫っているが、この2年間の調査の遂行が克明に記載されている。
もちろんその調査結果の集大成の内容はすさまじく、この詳細は本書に譲るが以下のようなもの。
・人質は1000人以上。大半は子供。この数字はずっと非公表。
・テロリスト殺害を最優先。人質救助の配慮は1mmもなし。
・人質救助の概念が無いのでとてつもない武器を使用して強行突破。
そのもうひとつの国家のジャーナリズムや言論統制についても本書レベルの切り口で迫ってほしい(が、その場合は筆者の命が危なそうだ)
<目次>
第1章 悲劇の新聞
第2章 奇妙なチェチェン人
第3章 告発の代償
第4章 殉教者たち
第5章 夢想家たちの新聞経営
第6章 犯罪専門記者の憂鬱
第7章 断末魔のテレビジャーナリズム
第8章 ベスラン学校占拠事件の地獄絵図
第9章 だれが子供たちを殺したか