<所感>
まずこのような回顧録が準備されていたことに感謝を言いたい。
総理大臣を辞してまもなくの国会議員として選挙演説中のさなかに暗殺されることになったことを考えると、憲政史上最長の政権を成した振り返りがされていることは貴重である。
印象的な3点を列挙。
1)現実主義
一貫しているのは最終責任者としての現実的判断。
100点を求められる場面でも60点や70点を取ることで自国の利益を得る。
評論家でもなく無責任野党でもなく、あくまで日本国の総理大臣という立場に立脚した政治判断がされていることが随所にうかがえる。
2)根源は失敗
長期政権の源は1年足らずで終わった第一次内閣の失敗と挫折にあるという。
失敗を経験したことで戦術を変え、国政選挙で連勝を重ねることができた。
失敗と挫折をしても再エントリーできるという社会はものすごく重要であり、心強い。
一度の失敗が出世競争の脱落を意味する世界が未だに銀行等の民間企業や官僚組織に存在するのとは対象的。
3)省益
総理大臣の仕事は国家と国民のためにされるべき。国家公務員(官僚)をそのはず。
しかし官僚は省益優先であり、国家の不利益になることも厭わない。
その典型かつ一番の障害が財務省。本書でもなんども言及される財務省。
あのとき消費増税がされなければ。。
財務省にとっては総理大臣もひとつのコマに過ぎないことがよくわかる。
端的に行って良書である。
テンポよくQ&A形式で過去を振り返っており読みやすい。
そして再認識させられる。日本は日本国のために奮闘した政治家をテロで失ったことを。
<目次>
第1章 コロナ蔓延―ダイヤモンド・プリンセスから辞任まで
第2章 総理大臣へ!―第1次内閣発足から退陣、再登板まで
第4章 官邸一強―集団的自衛権行使容認へ、国家安全保障局、内閣人事局発足
第5章 歴史認識―戦後70年談話と安全保障関連法
第6章 海外首脳たちのこと―オバマ、トランプ、メルケル、習近平、プーチン
第8章 ゆらぐ一強―トランプ大統領誕生、森友・加計問題、小池新党の脅威
第9章 揺れる外交―米朝首脳会談、中国「一帯一路」構想、北方領土交渉
第10章 新元号「令和」へ―トランプ来日、ハメネイ師との会談、韓国、GSOMIA破棄へ
終章 憲政史上最長の長期政権が実現できた理由
資料