「沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う」山舩 晃太郎
<所感>
英語力がゼロの文学部の大学生が水中考古学という学問に出会い、感銘を受ける。一念発起し、大学卒業後、アメリカに留学し10年かけて水中考古学者になるという内容。
20代から夢に向かって突っ走る著者のバイタリティが凄まじい。
ほら、読者のあなたも、さあ!そんな、何か尻を叩かれるような雰囲気が行間に溢れ出ている。
また、水中考古学という初耳の学問の実態も興味深い。
水中考古学の中心は沈没船発掘。その発掘プロジェクトの困難さは主に考古学そのものというよりも組織論に通じる。
発掘時には大学生や大学院生を主体としたチームをつくり、ほとんどが20代。合計10名ほど。
このメンバーが大きなアパートを貸し切って、2か月共同生活を送るという。
そうなると私生活のトラブルは必至。色恋沙汰、プライバシーがないことのストレス、また疲労蓄積でのストレス。
あるプロジェクトを進めるには、プロジェクトそのものよりも、プロジェクトを遂行するメンバーのケアが必要であり重要ということだ。
一つ残念なのは、第6~8章。ここはいろいろな発掘プロジェクトの事例が述べられている。
しかし冗長的であり、少し専門的。
どうせならもっと次世代の学者の育成、他学問とのシナジーの可能性といった点にもっと触れてもよかったのではと感じる。
<目次>
第1章 人類は農耕民となる前から船乗りだった
第2章 発掘現場には恋とカオスがつきものだ
第3章 TOEFL「読解1点」でも学者への道は拓ける
第4章 エーゲ海から「臭いお宝」を引き上げる
第5章 そこに船がある限り、学者はドブ川にも潜る
第6章 沈没船探偵、カリブ海に眠る船の正体を推理する