「なぜ脳はアートがわかるのか」エリック・R・カンデル
<所感>
大学生時代に微生物をつかって金属のナノ粒子を合成する研究をした。この時の微生物は異化的金属還元細菌と呼ばれるもの。この「還元」とは物質が原子を受け取る化学反応のことで高校で習うそれである。
しかし「還元」は根源的なものに戻すという意味もあり、その意味をもとにした考え方が「還元主義」だ。
閑話休題。
脳科学者が学習や記憶の研究に際して還元主義を採用していること。
一方で(本書に出てくる)アーティストが還元主義的アプローチで芸術的想像性の基盤を探求している。
この点で脳とアート両者に還元主義なる架け橋があると本書は指摘する。
具体的には…
還元主義に立脚した脳研究→単純な事例にしぼって視覚プロセスを描写
還元主義的な芸術家の着目点→フォルム、線、色、光に着目
大雑把にいうと単純にすると脳がよく理解できる、線やフォルムと言った単純な要素は脳が理解できるということか。
特に8章(脳はいかにして抽象イメージを処理し知覚するのか)は興味深い。
抽象芸術を見ることの喜びは網膜への感覚刺激(=絵を見る)がそれに結びついた記憶を想起する、つまり、鑑賞者がそれぞれ独自の経験に基づいてを補完する知覚体験からくるという。
さあ、美術館に行こう。
<目次>
1ニューヨーク派で二つの文化が出会う
2アートの知覚に対する科学的アプローチ
3鑑賞者のシェアの生物学
4学習と記憶の生物学
5抽象芸術の誕生と還元主義
6モンドリアンと具象イメージの大胆な還元
7ニューヨーク派の画家たち
8脳はいかにして抽象イメージを処理し知覚するのか
9具象から色の抽象へ
10色と脳
11光に焦点を絞る
12具象芸術への還元主義の影響
13なぜアートの還元は成功したのか?
14二つの文化に戻る